打つべきか打たざるべきか
打つべきか打たざるべきか
横浜市でもワクチン接種の準備がようやく整ってきました。最近患者さんからよく聞かれることが、「打ったほうがいいのかどうか」「私は打っても大丈夫か」という質問です。
ファイザーワクチンの取扱説明書にあたる添付文書には
接種不適当者(予防接種を受けることが適当でない者)
2.1明らかな 発熱を呈している者
2.2重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな 者
2.3本剤の成分に対し重度の過敏症 の既往歴のある者
2.4上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態 にある者
となっております。 2.1、2.2、2.3についてはよくわかるのですが2.4はわかりづらいですね。
強力な免疫抑制剤が処方されている患者さんには投与してもうまく抗体が作れないのかもしれません。そういったことも含んでいるのだと思いますが、ほかにもあるかもしれません。しかし、そうした患者さんほど罹患したらひとたまりもないと思われますので接種したほうがいいという意見もあります。
接種時に注意するべき病態の患者さんはもちろんいらっしゃいますが、それらの病気そのものは「接種禁忌」とはどこにも書かれておりません。 急な風邪や腹痛下痢など明らかな疾患がない場合はほとんどの場合「注意して」接種可能と考えられます。もちろん化粧品などに含まれるPEG(ポリエチレングリコール)にアレルギーがある場合は打てません。このワクチンに含まれておりますので。
さて、アナフィラキシーが次に怖い状態です。マスコミでさんざんキャンペーンされておりますので皆さんもご存じかと思います。以前にも書きましたし、「適切な治療をすれば」回復する病態ですがもう少し具体的に考えてみましょう。米国のデータですが、アナフィラキシーの起こる確率は
それぞれ 100万回に対し
ペニシリン 4590回
痛み止め 1300回 (NsAiDsという非ステロイド性消炎鎮痛薬=ロキソニンなど)
マクロライド 380回 (クラリスやジスロマックなど)
キノロン 370回 (クラビットやジェニナックなど)
です。ではファイザーのワクチンは100万回あたり
10.15回で 他のワクチンでは一般的に1.31回 という報告があります。
なお、日本では37回(4/22時点)という報告があります。
確かにほかのワクチンよりは安全性が劣りますね。
ただ、確率的にいえば決して高くないのではないかと思いますが、いかがでしょう?
ちなみに人口の0.3%が交通事故にあい、その1%が死亡するという統計から計算すると100万回の交通事故で死亡する人は30人になります。
とはいえ、一度起こると処置に労力を取られます。当初、医師が接種の手上げをしないのはこの部分が大きかったようです。 ショックが起きたら蘇生できるか? スタッフは足りるのか? 裁判沙汰になるのではないか? その場合、国は保障してくれるのか? といった心配があるのです。 麻酔科、ICU、救急に従事していない先生には蘇生は難しいものがあると推察します。 以前のブログの中で「出来るだけ集団接種を受けて下さい」、と書いたのはスタッフの充実、という側面があります。より安全なわけですね。
ただし、高齢者については以下の論文にもありますが、薬の量(特に降圧薬)が多い場合や持っている疾患(心臓病や腎臓病)が影響しやすいとの報告もあります。Allergy. 2021 Apr 02; doi: 10.1111/all.14838.
高齢者は動脈硬化が進んでおりますのでショックを起こした際、酸素の運搬能の低下や心機能の低下があるためアドレナリンの処方時に十分な注意を払う必要があるのです。
さて、次に新型コロナにかかった後の後遺症について情報を見てみましょう。
最近様々後遺症が報告されています。うつ状態、疲労感、脱力感、めまい、勃起不全など、2,3週間だけではなくかなり長期にわたり症状が持続するようです。いつまで続くのかまだわかりません。
その原因はおそらく血栓ではないかと言われてきております。 どうして血栓?
実はコロナウイルスは血管内皮細胞を傷つけることがわかっております。血管が傷つくと止血凝固機能が活性化して血小板が固まって血栓を作るのですが、コロナに傷つけられた血管内皮細胞によって微小な血栓が体のあちこちにできるということがわかってきております。治療の方法がなかなかないので、かからないことが大切、となります。 勃起不全に関する論文は以下の文献をご参照ください。
Sansone A, et al. Andrology. 2021 Mar 20
この文献にも「マスクとワクチンは有効と考えられる」、と記されています。
ワクチン打ったら遊べるのか
「ワクチン打ったら孫に会えるからはやく打ちたい」という人も結構いらっしゃいますが、果たしてどうでしょう。結論から言うと「もう少し待って。」となります。ワクチン接種後ご自身は感染を抑えられますが、健康保菌者にランクアップするだけです。体に入ってきたコロナウイルスは鼻粘膜や咽頭部にとどまりそれを排出する際、近くに無防備な人がいれば容赦なく移っていくでしょう。かわいい孫に移してしまう可能性は大いにあります。1年前の第1波のウイルス株は若年者はほとんど発症しなかったのですが、変異株は若年者でも発症します。 そうなると、今まで通りの生活が必要となります。 最近、ワクチン接種により感染の伝播も抑えられるのではないかという報告も出ておりますが、まだはっきりしておりません。
三密避ける、マスク、うがい、手洗い 免疫を下げないようよく休む は しばらく続けざるを得ないでしょう。
接種後の副反応について
若い世代ほど副反応が強く出る傾向がわかっております。頭痛、発熱、全身倦怠感、筋肉痛がおもに報告されている副反応です。いずれも2,3日で回復します。すでに2回打った病院医師の話では若い看護士が上記症状で翌日休んだ、と話しておりました。高齢者がワクチン接種後なくなる症例がありましたが、いずれも基礎疾患を有しており、偶発的な可能性もあり、現段階では接種のメリットの方が上回ると判断されております。詳しくは厚労省のページをご参照ください。 5/12横浜市大の山中教授の発表では 「中和抗体を確実に作るためには2回接種が必要」 とされております。2回打たないと設定された効果は期待できないことが証明されました。
打つべきか打たざるべきか
医者はアドバイスはできますが決定はできません。 上記の情報も加味し、メリットデメリットをそれぞれ考えてご家族やご自身でお決めください。また、かかりつけ医の先生にご相談ください。 なお、打つ!と覚悟を決めた人のみ接種会場へいらしてください。 接種会場にはハムレットの歩く場所はありませんので。2021.5.3